2026年01月04日
●和訳1
One of the greatest dangers of population increase may well be that men will, more and more, be compelled to behave as robots. Food, industrial resources, and other elements involved in the operation of the body machine are not the only factors to be considered in determining the best population density. Just as important are the social services which make it possible to satisfy the longing for quiet, empty spaces, privacy, independence, and other conditions essential for preserving and enriching the peculiarly human qualities of life. All these will probably be in short supply long before there is a critical shortage of the materials and forces which keep the body machine going. And as they disappear, so will many of the conditions which have enabled human life to go beyond brutish existence.
Universitas Airlangga, Etika dan moral kedokteran: rangkaian tjeramah (Surabaya: Bagian Neurologi & Psikiatri, Universitas Airlangga, 1967), p. 96.
https://www.google.co.jp/books/edition/Etika_dan_moral_kedokteran/gk1L7lpf7V4C
(GoogleBooksの以下の全文検索でヒットする。"Christ withdrew to the desert , Buddha to the forest , Mohammed to his tent.")
「人口増加がもたらす最大の危機のひとつは、人間がますますロボットのように振る舞うことを強いられるようになる、ということかもしれない。最適な人口密度を決定する際に考慮すべき要因は、食料や産業資源、あるいは身体という機械を動かすための諸要素だけではない。それらと同じくらい重要なのが、静寂や何もない空間、プライバシー、独立心への欲求を満たし、人間特有の生活の質を維持し豊かにするために不可欠な社会的サービスである。これらすべては、身体という機械を維持するための物資やエネルギーが致命的に不足するずっと前に、供給不足に陥るだろう。そしてそれらが消え去ると、人間の生を単なるケモノ以上のものにしてきた条件の多くも、失われてしまうのである。」
★感想
ルネ・デュボス(René Dubos, 1901–1982)は、アメリカの微生物学者、病理学者、環境哲学者・ヒューマニスト。抗生物質「グラミシジン」を分離することに成功(1939)し、ロックフェラー研究所で、結核菌の培養法や免疫学の研究に従事した。So Human an Animal, 1968でピューリッツァー賞Pulitzer Prizeを1969年に受賞。環境運動の標語"Think Globally, Act Locally"を考案したことでも知られる。ネットでヒットする出典は1967年にインドネシアのアイルランガ大学で出版された講演集だが、ルネ・デュボスの部分は引用で、別にオリジナルがあるとAIは指摘するが、そのAIがハルシネーションを起こすため原典が特定できない。1960年代に書かれた文章として、当時焦点の当たった「地球規模での人口爆発」についての未来への懸念であるが、手塚治虫の鉄腕アトムが初めて放送された1963年頃のロボット感に比べて60年たった今、ロボットがますます人間のように振る舞うことを強いられるようになってきた現在においても、捨て去ることのできない文章である。
(1982年北海道大学 学部入試 英語・第1問)
●和訳1
Increasing experience is a major factor in accident reduction, for inexperienced drivers have high accident rates. Experience cannot be taught, but it can be guided.
WHO, Road Traffic Accidents: Epidemiology, Control, and Prevention, Public Health Papers No. 12, Geneva, 1962.
https://iris.who.int/server/api/core/bitstreams/0675e43b-215b-4e3f-a951-22dbb840b37a/content
「経験の足りない運転者は事故を起こす確率が高いので、経験を積み重ねることが事故を減らすための大切なカギとなる。経験そのものを教えることはできないが、正しい経験ができるように導くことはできる。」
★(感想)
1950年代から60年代にかけて、先進諸国ではモータリゼーション(自動車の普及)が進み交通事故による死傷者が爆発的に急増して社会問題となると、WHOは「交通事故」を「公衆衛生上の疫学的な課題」である種の「流行病」と捉え、当時ロンドン輸送局の首席医務官であったL. G. ノーマン(L. G. Norman)に依頼してこのレポートを作成してPublic Health Papers No. 12を発行した。ノーマンは膨大なプロの運転手の科学的データから「交通事故」を「病気」と同じように疫学的アプローチを用いて分析し、「経験」と「事故率」の科学的相関や「精神的余力(スペア・キャパシティ)」にも言及するなど、その後の各国の交通行政に強い影響を与え、現在の「交通安全の統計分析」や「運転免許講習」などにも連なるこの報告書を上梓した。
(1982年東北大学 学部入試 英語・第1問)
●和訳1
Most of this new world we take so completely for granted that we merely turn switches, dial telephones and board jet planes without asking questions and certainly without any vivid sense of their novelty or of the fact that we really know almost nothing about how they work or how they came to be.
Joseph Wood Krutch, And Even If You Do: Essays on Man, Manners & Machines, Morrow, 1967.
https://archive.org/details/flowersforyourch00wils/page/n9/mode/2up?q=turn+switches (検索窓に該当文章がヒットする)
「私たちはこの新しい世界の大部分をあまりにも当然のことと思っているため、何の疑問も持たずにただスイッチを入れ、電話をかけ、ジェット機に乗り込んでいる。それらの目新しさに対しても、あるいは、それらがどう機能し、いかなる経緯で誕生したのかについて実はほとんど何も知らないという事実に対しても、鮮明な実感を抱くことすらないままに。」
★(感想)
前年度に九州大学でも出題されたJoseph Wood Krutch(ジョセフ・ウッド・クルッチ1893 - 1970年、コロンビア大学英語学教授)の、急激な技術進歩を遂げた20世紀半ばのアメリカにおいて、人間性が失われていくことへの警鐘を鳴らした文明批評であるAnd Even If You Do(たとえそうしたとしても)からの出題。反・決定論(人間が単なる生物的な機械や、社会構造の部品にすぎないという考え方)や、テクノロジーに依存しすぎることへのアンチテーゼである人間中心主義に重きを置いたクルッチらしい文章である。そんな博物学者にして自然愛好家であるクルッチがもともとは演劇批評から出発したというのも腑に落ちる話だ。
(1982年東京大学 学部入試 英語・第1問(B))
●和訳1
Sporting activities are essentially modified forms of hunting behaviour. Viewed biologically, the modern footballer is revealed as a member of a disguised hunting pack. His killing weapon has turned into a harmless football and his prey into a goal-mouth. If his aim is accurate and he scores a goal, he enjoys the hunter's triumph of killing his prey.
Morris, Desmond. Manwatching: A Field Guide to Human Behaviour. Jonathan Cape, 1977.
https://archive.org/details/pocketguidetoman00morr/page/448/mode/2up
「スポーツ活動の本質は形を変えた狩猟である。生物学的に見ると、現代のサッカー選手は姿を変えた狩猟チームの一員であることが明らかになる。殺傷武器は無害なサッカーボールへ、獲物はゴールマウス(ゴール正面のエリア)へと変わったが、もし狙いが正確でゴールを決められれば、彼は獲物を仕留めたハンターとしての勝利を享受する。」
★(感想)
デズモンド・モリス(Desmond Morris, 1928 - )は、イギリスの動物行動学者、人類学者で、Surréalisme(シュルレアリスム)の画家でもある。The Naked Ape「裸のサル」: A Zoologist's Study of the Human Animal, 1967.により有名になる。日本ではこのタイトルをパロディにした、栗本慎一郎の「パンツをはいたサル」光文社, 1981が出版された。モリスは人間は言葉で嘘をつくが、身体の動きでは真実を語ると考え、人間もまた一種類の動物に過ぎないという視点から動物行動学的に人間を分析した。このManwatching, 1977では人間のボディランゲージを詳細にカタログ化している。都市は「人間動物園」であるという発想もモリスから始まっている。
(1982年名古屋大学 学部入試 英語・第2問)
●和訳1
Nowadays we speak quite easily and naturally of the crisis through which our civilization is passing.
Adams, E. Maynard. "The Mission of Liberal Learning." The Educational Forum, vol. 25, no. 2, 1961, pp. 171-180.
https://www.google.co.jp/books/edition/Toward_liberal_education/gzlQAQAAMAAJ
「今日、私たちは自らの文明が通り抜けつつある危機について、ごく当たり前に、また平然と語っている。」
★(感想)
E. メイナード・アダムス (E. Maynard Adams, 1919–2003)は、アメリカの哲学者であり、ノースカロライナ大学チャペルヒル校(UNC-Chapel Hill)で1948年から1990年にわたり長く教鞭を執った哲学科教授。「現代文化の危機とその克服」を専門とした。アダムスは、現代人が科学的に証明できる事実のみを真実とし、道徳や美、宗教といった価値を単なる主観的な感情や好みの問題として片付けてしまい価値に客観性を見出せなくなった結果、文明が意味の危機に陥っているとして「科学的自然主義」への過度な依存が現代社会の諸問題の根本原因であると警鐘を鳴らした。道徳的価値や精神的な真理は理性的(Rational)に理解可能で客観的な実体を持つものであり、人間の感情的・認知的(affective-cognitive)な能力を通じて世界の道徳的構造を把握できると主張した。また教育を単なる専門知識の伝達を超えて人間を「精神的な存在」として目覚めさせるための教養教育(リベラル・ラーニング)の重要性を説いた。アダムスの思想は、現在のフィルターバブルやエコーチェンバー現象を引き起こすSNSとアルゴリズムや、マスメディアの権威失墜による情報の民主化と断片化がもたらすポスト真実の時代(事実の軽視、真実の複数化、専門家への不信)において再評価されている。
(1982年京都大学 学部入試 英語・第1問)
●和訳2
With the passing of time, the arts have become so inextricably woven into our daily lives that we tend to take them for granted and ignore the central place that they have always occupied in the human being.
Henry Pluckrose, Children in Their Primary Schools (London: Harper & Row, 1979).
https://archive.org/details/childrenintheirp0000pluc/page/126/mode/2up
「時の経過とともに、芸術は私たちの日々の暮らしに分かちがたく結びついてきてしまったため、私たちはそれを当然のことと思い込み、芸術が人間にとって常に中心的な役割を担ってきたということを、ともすれば見失いがちである。」
★(感想)
ヘンリー・プラックローズ(Henry Pluckrose,1931–2011)はイギリスの教育者であり、児童作家。長年ロンドンの小学校で校長を務め、子供向けの学習絵本や教育理論書を数多く執筆した。Children in Their Primary Schoolsは当時プログレッシブ・スクール(進歩主義校) の校長 であったプラックローズの特に「芸術(Art and Craft)」の教育的価値を高く評価し た側面をあますところなく伝えている教育理論書である。当時(1960年代後半から70年代にかけて )イギリスの初等教育はThe Plowden Report (Children and their Primary Schools: A Report of the Central Advisory Council for Education), 1967 の影響下で「教育の中心にいるのは子どもである」という理念から、従来の一斉授業より子どもの興味関心に基づいた学習へとシフトしていく時期にあった。(やがて1980年代以降になると「ナショナル・カリキュラム」の導入や「標準テスト(SATs)」の重視へ、管理主義的な方向へ舵を切ることになる)。この書でプラックローズは、教科を科目別に切り離すのではなく、一つのテーマから、読み書き、計算、芸術、科学へと広げていく手法 を推奨し、また教師は答えを教えるのではなく、子どもが自ら問いを立て、発見するプロセスをサポートする役割(ファシリテーター)であることを強調している。まるで三周遅れでどこかの国がやっていることに似ているわけだが、このあとの80年代の教育方針の転換については、1970年代後半に沸き起こる「教育の質の低下」に対する批判(進歩主義への不信 と経済の低迷、[逆に高度経済成長を遂げた日本に対する戦勝国による日本の軍隊的教育の発見])と、1979年5月4日に首相に就任するマーガレット・サッチャー(Margaret Thatcher)の下で制定される管理主義的教育を定めたEducation Reform Act 1988(1988年教育改革法)に関係があるのだが、それはこの入試問題のトピックを離れた別の話になる。入試のこの文章はきちんとした日本語にしないと点は絶対にもらえないが、意訳しすぎても点はない。厳しいね。
(1982年京都大学 学部入試 英語・第2問)
●英作1
「自分を知るというくらいやさしいようでむずかしいことはない。」
(出典情報:不明)
"Nothing is harder than knowing yourself, despite how easy it appears."
★(感想)
このあと、「しじゅう鏡の前に立つことが、自分を知ることではない。...」と続くのだが、ネットで出典の検索をしていたら知恵袋か何かで「しじゅう鏡」って何ですか、という質問がされており思わずコーヒーを吹いた。
(1982年京都大学 学部入試 英語・第3問)
●英作2
「コップをふたつ洗って重ねておくと、とれなくなって困ることがあります。」
(出典情報:不明)
"It can be a problem when two glasses get stuck together after being washed and stacked while wet."
★(感想)
作文させられた当時の奴らはさぞかし焦っただろう。「そもそもコップを重ねて置くな」、と心で絶叫したに違いない。
(1982年京都大学 学部入試 英語・第3問)
●和訳1
The underlying assumptions of an age, the things commonly taken for granted to the extent that no one will bother to write them down, are not only among the most significant, but also among the most difficult to grasp by minds brought up in the captivity of different assumptions.
Sidney Pollard, The Idea of Progress: History and Society (Penguin Books, 1971), p. 15.
https://archive.org/details/ideaofprogresshi0000sidn/page/1/mode/1up
「ある時代の根底にあり、わざわざ書き留めるまでもないほど当然とされている仮定は、単にそれが最も大事なものであるというだけではなく、異なる仮定の中に囚われて育った精神からみれば、最も理解しがたいものの一つでもあるのだ。」
★感想
シドニー・ポラード(Sidney Pollard, 1925–1998)はウィーン生まれの帰化イギリス人、経済史・社会史学者。シェフィールド大学、ビーレフェルト大学の経済史教授。産業革命期における経営管理(マネジメント)の変遷を緻密な分析で論証したPeaceful Conquest: The Industrialization of Europe, 1760–1970 (Oxford University Press, 1981)が、ヨーロッパ経済史における「国民経済」から「地域(リージョン)」への視点転換、工業化の「同時性」と「連続性」、そして軍事的ではなく経済的に他国を圧倒し、同化させていったプロセスである「平和的征服(Peaceful Conquest)」という概念において、それまでのヨーロッパ経済史観を塗り替える業績をあげた。産業革命が、ある日突然一国で起きた爆発的な事件ではなく、地域から地域へと波及し、全欧を経済的に塗り替えていった長期的かつ不可避なプロセスであることを明らかにした。
(1982年大阪大学 学部入試 英語・第1問(A))
●和訳1
The ultimate cultural value of folk and fairy tales today depends on how we convert technology to give us a stronger sense of history and of our own powers to create more just and equitable social orders. Technology itself is not the enemy of folk and fairy tales. On the contrary, it can actually help liberate and fulfil the imaginative projections of better worlds which are contained in folk and fairy tales. The best of folk and fairy tales chart ways for us to become masters of history and of our own destinies.
Jack Zipes, Breaking the Magic Spell: Radical Theories of Folk and Fairy Tales, University of Texas Press, 1979
出題にあたり章内で大幅な省略が加えられている。
「今日、文化という意味で民話やおとぎ話が持つ本当の価値は、私たちがテクノロジーをうまく使いこなして、自分たちの手で歴史を刻み、より住みよい社会を築き上げる力をいかに引き出せるか、という点にある。テクノロジー自体は、決して民話やおとぎ話の敵ではない。むしろ、テクノロジーは民話やおとぎ話の中に込められた「もっといい世界にしたい」という自由な空想を解き放ち、現実のものにするための強力な助けになってくれるはずである。」
★感想
ジャック・ザイプス(Jack Zipes, 1937年 - )は、アメリカのドイツ文学者、比較文学者であり、おとぎ話研究の第一人者。ミネソタ大学で長く教鞭を執った。おとぎ話を社会化の道具として捉え、物語が口承(民話)から文学(おとぎ話)へと移行する際、どのように「野蛮な要素」が取り除かれ、従順な市民を育てるための教訓話へと変質したかを論じて、おとぎ話が社会の中でどのように機能し人々の思想を形作ってきたかを解き明かした。グリム童話の変遷の研究や、ウォルト・ディズニーによるおとぎ話のアニメーション化においておとぎ話から複雑な社会的文脈が奪わけることで、おとぎ話を単なる受動的な消費材に変えてしまったことを理由にウォルト・ディズニーを批判した。
(1982年九州大学 学部入試 英語・第5問)